あれ、この店なら前回読んだような・・・?とか考えた方、それはデジャブですらないです。前回がマヤで今回はメサ。きちんと別のレストランですから。前のはメキシコ料理で今回のはフィリピン料理ね。ちなみにMesaっていうのはスペイン語およびタガログ語で机、テーブルの意味ですな。セブで使われてるビサヤ語ではLamesaかな。これってさ、もともとスペイン語のLa mesa、英語でいえばThe Tableみたいに冠詞+名詞をまとめて一つの名詞にしちまったってことですよね、多分?・・・って、11年もセブに住んでるくせにビサヤ語のかけらもしゃべれない人間に偉そうに豆知識を語ってほしくないですか、そうですか。
んでね、またもやフィリピン料理なわけですが、まあアヤラには以前に紹介したラグーナカフェ&ラグーナガーデンカフェがあるので、普通のフィリピン料理を食べてみたいというときにはそっちに行けばいいんじゃないかと思うわけですよ。ただ、こっちのレストランはちょっと伝統的なフィリピ菰料理に捻りを加えた感じなんで、その点ではありかなと。
この店の料理のどこがどう捻ってあるかとかそういうのは、じゃあどういうのが基本なのかっていうところから説明しなくちゃいけないのでめんどくさいので書きたくないなーとか思ったんですが、よくよく考えたらそういうことを書くのが自分の仕事だったような気もするので、例をあげて説明すると、普通のフィリピンレストランで『シシグ』を頼むと、熱い鉄板の上にじゅーじゅーいいながら出てくるわけですよね?でもここのシシグはワンタンの皮のようなクリスピーな巾着の中に包まれて出てきます。それとか、フィリピン料理の定番の野菜炒め『ピナクベット』にバゴスの腹の身を乗っけて出してみたり、ティナパという魚のスモークを春巻きに仕立ててみたり。プレゼンテーションに気を使って、蓮華の上に一口サイズの前菜を盛り付けてみたりもします。
他の店でもそんなことくらいやってるよ、っていう意見もあるかもしれませんが、そんな事言い始めたらここまでせっかく書いてきた原稿が無駄になるので軽く黙殺。
本来、フィリピン料理って、もりもりとご飯がすすむような、家庭的と言ってもいい素朴な美味しさが根幹にあるんじゃないかと思うんですよね。結局フィリピン料理は盛り付けも、肉なら肉だけ、下手な飾りつけとかしないでドカーン!と皿の上に盛って出す、みたいな感じでね。ポチェロにしたって、美味しいって言われてるところのはみんなほとんど野菜なんて入ってないし。クリスピーパタも揚げた豚足のみ。食べるほうも、付け合わせの野菜とかがもしあったとしても手をつけることなど考えもしない。なんつーんですかね、焦らしなし、前戯なし、本番バッチコーイ!そういう感じですか?
そういうフィリピン料理だからこそ、美味しいのになかなか海外では普及しな いんじゃないかなあとか考えちゃうんですよね。タイ料理なんかはそれなりにプレゼンにも気を使ってるし、もともといろんなスパイスや食材を使う分、味も華やかだし見た目も色とりどりじゃないですか。 でもフィリピン料理ときたら、茶系統の色ばっかり(肉、醤油、揚げ物)だし、味付けは酢と醤油ベースが多くて、普通に使われるスパイスも胡椒、チリ、ニンニク、生姜、ローリエくらいかなあ。美味しいんだけど、『ハレ』(=非日常by柳田國男)の料理としては華やぎに欠けるんですよね。そして基本的には外食というのは『ハレ』の場ですからね、そこには日常感たっぷりなフィリピン料理がマッチしない、ということなのではないかと。
外国の料理である、という時点で十分『非日常』なんじゃないですか?という疑問は当然出てくるものと思うんですが、『非日常』であるだけでは不十分で、そこに何らかの『華』が必要だと思うんですよ、 『ハレ』にふさわしくあるためには。フィリピンが、例えば王族のような強大な力と資金を持つフィリピン人の特権階級によってそれなりの期間治められていたのなら、彼らを牽引役としてフィリピン独自の料理文化が成熟し、味付けも飾り付けも『ハレ』に対応する形で進歩していくことも可能だったんじゃないかと思うんですけどね。残念ながらただ単に植民地の支配者であったスペイン人ではその役目は果たせなかったわけで。
言ってみればこのメサというレストランは、フィリピン料理を如何に『ハレ』の日の料理にふさわしいものに仕上げられるか、というテーマに挑戦しているレストランの一つだと言えるのかもしれませんね。 @B級グルメ
2010年3-4月号 掲載